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[特集]
長岡 下水道

2、170q――北海道から沖縄までの距離と同じ長さの下水道管が、市内の地下に張り巡らされています。

私たちが毎日当然のように使うお風呂、トイレ、台所などで出る汚れた水は、下水道がきれいにしています。雨が降ったら地面に水があふれないよう、雨水を流したり貯めたりしています。

人目に触れず、目立たず。それでも、私たちの快適な暮らしを守っている下水道。昔も今も、そして未来も、“先駆者”として挑戦を続ける長岡の下水道を紹介します。
 【問】下水道課TEL39・2235




家庭で使った水をきれいに。
大雨から命を守る。

「長岡中央浄化センターを見学する中島小学校の児童」の画像
長岡中央浄化センターを見学する
中島小学校の児童(6月6日)

 明治時代、都市の人口が増えると、低地に流れず溜まった汚水などが原因で、伝染病が流行しました。その惨状を救ったのが下水道です。
 現在、私たちが洗濯やトイレで使った「汚水」は、地下にある下水道管を流れて下水処理場にたどり着きます。そこで、汚水に含まれる大きなごみや砂をふるいにかけ、残った汚れを微生物が食べて成長。大きくなった微生物が下に沈むことで、水はきれいになり、川や海に流します。取り除いた汚れや微生物の塊は「汚泥(おでい)」と言い、埋め立て処分をされたり、建設資材やエネルギーなどに利用されたりします。

雨水を流し浸水対策の役割も
 下水道は一方で、大雨から命を守る働きも担っています。
 現在の都市は、道路や建物の敷地がアスファルトなどで覆われ、「雨水」は地面に浸透しません。この雨水を側溝から地下に取り込み、川や海に流しています。
 特に、ゲリラ豪雨が発生した際は、雨水ポンプ場や地下に雨水を一時的に溜める貯留施設で、浸水被害などを防いでいます。



「金山を掘ることと同じ」
普及を訴え先人


 下水道の歴史は古く、明治33年、下水道の普及への理念を定めた下水道法が日本で初めて制定されました。その中心人物が長岡出身の医師・長谷川泰です。内務省衛生局長(現在の厚生労働大臣)だった泰は「下水道が整備されれば流行病がなくなり、健康な労働者が富を造る」「下水道を掘ることは、町の中の金山を掘ることと同じだ」と力説。下水道の普及にまい進しました。
 長岡の下水道整備は大正13年から始まり、上水道との同時施工は全国7番目の早さとも伝えられています。
 その後、昭和20年の長岡空襲にも耐え、昭和51年には市内で初めて下水処理場が建設されました。

「長谷川 泰(たい)」の画像 「大正13年に建設し、「管更生工法」で更新した呉服町の下水道管」の画像
▲長谷川 泰(たい)
(1842〜1912年)
  ▲大正13年に建設し、「管更生工法」で更新した呉服町の下水道管。内側を表面が滑らかな管で覆うことで、水の流れる早さが増し、たくさんの水を流せるようになります


普及率は全国トップクラス
 現在の長岡市の下水道普及率は91・2%。先人の功績と市民の協力により全国トップクラスを誇ります。整備中の中之島、寺泊地域では、早期の完成を目指し、工事を進めています。
  「下水道普及率」の画像

「表町の雨水貯留管整備に向けて巨大掘削機の搬入」の画像
表町の雨水貯留管整備に向けて巨大掘削機の搬入(平成29年6月1日)



全国に先駆けた技術
復興の経験を東北へ


全国初、1、000世帯分のバイオガスを民間業者に売却
 平成11年、汚泥から発生するバイオガスを全国で初めて民間ガス会社に供給したのは長岡市です。量は年間約55万m3で一般家庭1、000世帯分。ガスの不純物を除去(精製)する先端技術は同年、「いきいき下水道賞建設大臣賞」を受賞し、注目を集めました。

「ガスを精製する@精製塔とAガスホルダ」の画像
▲ガスを精製する@精製塔とAガスホルダ

暮らしへの影響を大幅に軽減した管の更新技術
 長岡市は平成13年から、全国に先駆けて老朽化した管の新たな更新方法に取り組みました。当時の最新技術である「管更生工法(内面被覆工法)」です。地下工事ではあっても地面を掘る必要がないため、交通への影響がほとんどありません。

「大正13年、本町2丁目(現在)の下水道整備工事」の画像
▲大正13年、本町2丁目(現在)の下水道整備工事。機械はなく、人海戦術で36kmを4年間で整備しました

暮らしへの影響を大幅に軽減した管の更新技術
 長岡市は平成13年から、全国に先駆けて老朽化した管の新たな更新方法に取り組みました。当時の最新技術である「管更生工法(内面被覆工法)」です。地下工事ではあっても地面を掘る必要がないため、交通への影響がほとんどありません。

中越大震災の経験を東北のために
 また、長岡市は平成23年の東日本大震災のとき、福島県相馬市の復興支援のため職員を派遣しました。その数は6年間で11人。中越大震災での液状化対策などの経験を活かし、下水道管約13qを復旧しました。さらに、海岸部の地盤沈下による浸水対策として、雨水ポンプ場の建設を支援しました。

「相馬市の細田ポンプ場」の画像
相馬市の細田ポンプ場




    イノベーション 
未来へ、 挑戦。 

先人の意思と技術をつなぎ、常に時代をリードしてきた長岡の下水道。未来に向けて、挑戦は続きます。

海外も視野にエネルギーの地産地消
 長岡市、(株)大原鉄工所、長岡技術科学大学など6者は、小規模な下水処理場でのバイオガス発電の実現に向けた研究を始めます。国の「下水道革新的技術実証事業(B‐DASHプロジェクト)」に採択された「小規模下水処理場を対象とした低コスト・省エネルギー型高濃度メタン発酵技術」です。下水汚泥からガスを発生させる装置などを一体的に小型化するもので、電力費の削減や汚泥の減量化を可能にします。今年度から2年間、中之島浄化センターで実証研究を行います。
 全国の下水処理場は約2、100カ所あり、3分の2以上を小規模施設が占めます。これが成功すれば、その市場規模は国内はもちろん、海外にも広がります。
 研究の成果を長岡発の新たな技術や製品開発につなげるため、産学官が連携して「エネルギーの地産地消」を実現する下水道イノベーションに挑戦します。


「実証研究のイメージ図」の画像



「4月17日の共同研究体協定締結式」の画像
4月17日の共同研究体協定締結式。(左から)椛蛹エ鉄工所の大原社長、磯田市長、技大の東学長




「齋藤 忍(しのぶ)さん」の画像

長岡発の技術を
全国へ

(株)大原鉄工所
環境営業部長・齋藤 忍(しのぶ)さん

 下水処理場は、エネルギー生産に不可欠な排水処理を担える点で、地域の未利用バイオマス(生物資源)を使ったエネルギーの生産拠点として魅力があります。実証研究で使うガス発電機は、市のフロンティアチャレンジ補助金を活用して開発しました。長岡の先人たちに続けるよう、産学官が協力して本技術の全国展開に挑戦します。




浸水被害を減らす。
公園地下に巨大貯留施設

 下水道を早期に整備した市街地は現行基準と比べて排水能力が低い状況にあります。現在、順次、ポンプ場や貯留施設などの整備を進めています。
 来年度中の供用開始を目指し、琴平2丁目の「琴平つくしんぼ公園」地下に建設する、市内初の巨大貯留施設もその一つ。内部の高さは約4m、貯留量は2、800m3で、25mプール約8杯分の雨水を貯めることができます。これにより、東新町地区と琴平地区の浸水被害を減らせるようになります。

「公園地下に巨大貯留施設」の画像


Interview
下水道の発展はまちの発展
長岡技術科学大学 准教授
姫野 修司さん

下水道研究の第一人者に、長岡の下水道のこれまでと、これからを伺いました。

 気候変動による集中豪雨の多発などで、浸水対策への市民の関心は高まっています。そんな中、雨水貯留管や公園地下貯留施設の整備を進める長岡の取り組みは、非常に大切です。
 長岡には、下水道法の制定に尽力した長谷川泰のような偉人やバイオガスの売却、東日本大震災の被災地支援など、全国に誇れる下水道の歴史や実績が多くあります。これからは、全国の地方都市で課題となっている、下水処理場の合理化や汚泥のエネルギー化に先陣を切って挑んでいくべきです。その点では、「B‐DASHプロジェクト」に採択された実証研究は、大きな可能性を秘めています。
 これまでの技術ではコストが高いことを理由に、中小規模の下水処理場で汚泥のエネルギー化はほとんど行われていません。今回の研究成果が実用化されれば、全国へ普及されると思います。同じ課題を抱える先進国への導入やこれから下水道を整備する発展途上国への技術支援など、海外展開も期待できます。
 日常の”当たり前”を支える下水道の発展は、まちの発展と同じです。下水道の先進地として全国トップを走り続ける長岡の挑戦に、私も期待しています。

「姫野 修司さん」の画像 ひめの しゅうじ さん

国土交通省下水汚泥利活用推進
検討委員会 委員
新潟県汚水処理施設整備構想
委員会 委員長


主に下水道資源・エネルギー活用の分野を研究。国や下水道関連団体の委員を多数務めています




マンホールカードに熱狂!
初日の配布1,400枚はいまだ聞いたことのない数字


「マンホールカードに熱狂!」の画像

 長岡のマンホールふたをデザインした「マンホルカード」ができました。
 唯一人の目に触れるマンホールを通じて、下水道を身近に感じてもらおうと作成。国や企業などでつくる「下水道広報プラットフォーム(GKP)」の審査を経ないと発行できない希少なものです。コレクションとしても人気が高く、カードを求める観光客も期待されます。
 配布初日の4月28日は、「マンホーラー」と呼ばれる収集家たちが全国から集まり、約200人の長い行列に。この日だけで1,400枚を配る大盛況でした。GKPの担当者はこの結果に「いまだ聞いたことのない数字」と驚きの声。
 5月末までに2,300枚以上を配布。4割以上が市外・県外の人です。カードはまちなか観光プラザ(アオーレ長岡隣)で無料配布しています。

「マンホルカード」の画像
▲ふたの柄は、世界に誇る長岡花火や火焔土器、市郷土史料館、桜をデザイン。平成3年に市民公募で選ばれました


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