イノベーションの進化

長岡の未来を拓く
“鍵”となるものとは

佐々木 順子(ささきじゅんこ)さん
兵庫県出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、日本アイ・ビー・エム株式会社にシステムエンジニアとして入社。 執行役員となり、中国では2千人超の開発チームを統括。帰国後、マイクロソフト株式会社など複数の企業で社長や役員を歴任。 人材育成や多様性の推進にも積極的に取り組む。
 時代の変化を捉え、新たな発想やデジタル技術を取り入れて、市民生活の向上や産業の活性化を目指す「長岡版イノベーション」。 これをさらに進化させ、長岡の未来を創るために必要な“鍵”とは―。
 令和4年4月に長岡造形大学の理事長に就任した佐々木順子さんを迎え、市が目指すまちづくり・人づくりの展望を語り合いました。
進行はFМながおかパーソナリティの山田光枝さん


NAGAOKA WORKER(ナガオカ ワーカー)

長岡で暮らしながら、首都圏企業に本社採用、同待遇でリモートワークをする新しい働き方。33社が賛同しています。
なぜ、今「イノベーション」なのか
山田(進行) あけましておめでとうございます。昨年は新型コロナウイルスの影響が続く中、3年ぶりに長岡まつり大花火大会を開催するなど、 徐々に動きを取り戻し始めた1年でもありました。
市長 そうでしたね。今年は、これまで以上に市民がやりたいことに挑戦する年にしていきたいものです。 ウイルス禍で価値観が大きく変わったと言われていますが、今こそイノベーションで新しい価値を生み出すことが重要ではないでしょうか。
山田 長岡市では平成29年度から「長岡版イノベーション」を進めていますね。どのような取り組みなのでしょうか。
市長 長岡版イノベーションは、4大学1高専と産業界・行政が、力を合わせて新しい産業・事業・商品を生み出そうというムーブメント(運動)なんです。 サテライトオフィスの進出や「ナガオカワーカー」【1】、イノベーション地区に関する東京大学・内閣府との連携協定、地域バイオコミュニティの指定など、 多くの動きが出てきました。長岡版イノベーションの取り組みが全国的に認知されてきた実感があります。
佐々木 リモートワークでどこにいても働ける世の中になってきた今、ナガオカワーカーのような新しい働き方は、これからの時代の潮流ですね。
市長 佐々木さんは、企業が進出するときの決め手は何だと考えますか。
佐々木 やっぱり「人」ですね。長岡の人はきちんとしていて、辛抱強い。4大学1高専があり、各分野に優秀な人材がいるのも魅力です。 また、東京からのアクセスも良く、自然豊かな環境やおいしい食ベ物にあふれた長岡は、定住にも適したまちだと思います。
山田 若者に長岡で働きたいと思ってもらうには何が必要でしょうか。
佐々木 最近は就職先選びで「自分が成長できるか」や「会社が社会にどう貢献しているか」が重視されています。 それに応えられる企業がもっと増えるといいですね。
市長 長岡は快適な生活環境に加え、人材や研究、産業の集積など選ばれるための条件がそろっています。地方分散、リモートワークの流れも追い風ですね。 でも何といっても、新しい時代が求めるイノベーションを生み出す意欲というか、気概があることが長岡の一番の強みだと思います。
山田 企業経験も豊富な佐々木さんは、イノベーションをどう捉えていますか。
佐々木 「今まで関わったことのない人と出会う」「新しいものの見方や考え方を取り入れる」「やり方を変えてみる」など、 これまでの枠を少し超える「越境」だと捉えています。企業でいうと、ウイルス禍でも業績を伸ばしたところは、やはり新しいことを実践しています。 困難にぶつかったとき、だめだと思わずにどうしようかと考えるのがとても大事。困難が多い今だからこそ、イノベーションが必要なんです。



製造業のDX支援

市では長岡産業活性化協会NAZE(ナゼ)と連携し、製造業のデジタル化を伴走型で支援。アドバイザーの派遣(写真)や地元のIT事業者との連携により、生産性向上や作業の効率化を図ります。
2023年は「DX元年」
市長 今年は、市民サービス、市役所の仕事、そして企業活動のDX(デジタルトランスフォーメーション)に本腰を入れ、DX元年にしたいです。
山田 そもそもDXって何なんでしょう。
佐々木 「人がやっていたことをデジタルが代わりにやる」という印象がありますが、それは「IT化」。DXはデジタル技術を活用しながら、 仕事のやり方を根本的に変え、新しい価値をつくることです。ITはあくまで手段なので、まずはお客さまのためになることや働く人にとって より良いやり方を考えることがDXの第一歩です。
市長 デジタルで組織や業務を変革し、パフォーマンスを上げていく。「ながおかペイ」【11ページへ】の導入や、 楽天との協定による市内企業の商品を販売するECサイトの立ち上げ、モノづくり企業へのDX支援【2】などは、反響も大きく手応えを感じていますが、 もっとスピードアップしないとだめですね。
佐々木 DXは実現するのに時間がかかりますからね。小さなスタートでいいと思うんです。少しずつやり方を変えていくうちに 周りの人たちの発想も変わっていきます。それを積み重ねていくことが大事だと思います。



「テクノロジー×デザイン」

造形大では今春、2学科を統合しデザイン学科を新設。テクノロジーとの融合を目指す新たなデザイン教育を始めます。令和6年秋頃、新校舎が完成予定です。
新校舎イメージ
造形大が挑む、次世代デザイナーの育成
佐々木 やはりこれからの時代の変化に対応するには、デジタルを扱う能力が必要です。そこで、本学でもデジタルを取り入れ、 幅広くデザインの知識や考え方を学ぶ「デザイン学科」【3】を4月に新設します。こういった未来を見据えて人材を育てる動きは、 長岡の「米百俵」の精神にも通じると感じています。
市長 未来への投資ですね。そのほか新学科での学びの特徴は何でしょう。
佐々木 世の中が変化し、求められるものが多様化している昨今。相手が望んでいるものをくみ取って形にする力が求められています。 そこで、本学でデザインの基礎として教えてきた「デザイン思考」【4】を、より重視したカリキュラムになっています。
市長 本当に必要なもの、便利なもの、生活を豊かにしてくれる新しいものは何か。それを見つけるのがデザイン思考ですね。ユーザーの目線、市民の目線で。
佐々木 市民の目線に立つことは大事ですよね。本学でも4大学1高専で連携し、長岡の歴史から産業まで幅広く学ぶ「長岡学」をこの春、 開講します。本学の学生は8割が県外出身。対象物をよく知らなければ、良いデザインは生まれません。 まずは長岡のことを知り、長岡にどんな価値を提供できるか考えられるようになってほしいです。

デザイン思考

デザイナーのアイデア発想のプロセスを応用し、使い手のニーズから課題発見・解決を図る思考法。
造形大プロダクトデザイン学科の授業風景



女性活躍推進セミナー

活動の幅を広げたい女性が、さまざまな分野で学びを深める連続講座「スマートキャリアプログラム」。
多様性でイノベーションの進化へ
山田 今後、イノベーションをさらに進化させていくために必要なことは何でしょう。
佐々木 オープンな場で年齢や性別、国籍を問わず、さまざまな価値観を持った人が自由に意見を言える環境が必要だと思います。 言いたいこと、やりたいことを否定されない雰囲気の中で、意見を持ち寄って試行錯誤することからイノベーションは生まれます。
市長 まさに多様性ですね。
佐々木 はい。中でも今の日本でまず求められるのが「女性」の視点。働く人も商品を買う人も半分は女性です。 上場企業の中には役員の一定数が女性になるようルール化しているところもあります。これまで男性ばかりだった会議や集団に女性が入ると、 これまでの「当たり前」を見直すきっかけになります。実際に、女性がいると議論が活発になると感じています。
市長 市も昨年の4月から女性活躍推進担当部長を新設し、女性が力を発揮できる環境づくりを進めています。
佐々木 私も市のセミナー【5】に講師として参加しました。長岡の女性は積極的で元気な人が多い印象を受けたので、期待できますね。
市長 外国人材の活用についてはいかがですか。長岡には多くの留学生がいて、市内企業でのインターンシップ(仕事の体験)や就職を推進しているのですが。
佐々木 地域産業の活性化につながると思います。私はこれまで30カ国以上の人たちと一緒に仕事をして、視野が広がり、発想に刺激を受けました。 さまざまな価値観の人が集まったときは、相手のことを自分の思い込みで決めつけないことが大切。合意形成は大変ですが、その分大きな推進力が生まれますよ。



ミライエから始まる新しいまなび

ものづくり、プログラミングなどを体験できます。先行事業では、廃材を活用した作品(写真)やデザイン思考でキャンバスアートを作りました。【8ページへ】
明るい「未来へ」のスタート
山田 さて、今年は新たなイノベーションの拠点が誕生するそうですね。
市長 はい、7月に「米百俵プレイス ミライエ長岡」が先行オープンします。人材育成や若者の起業・創業、産業振興の拠点施設です。 そして、子どもから高齢者まで、誰でも気軽に立ち寄れる楽しい「学びの場」です。市外や海外の人と交流する仕掛けも作っていきたいですね。
佐々木 普段の生活で関わることのない人と出会える。まさに「越境」ですね。
市長 小学生向けのプログラム【6】もスタートし、中学生や高校生にも展開していきます。学校とは異なる学びを提供して、 教育にもイノベーションを起こしたい。社会の状況が目まぐるしく変化する中で、今の子どもたちはひたすら勉強だけというわけにもいかないように感じています。
佐々木 知識だけでなく考え方が身に付けば、どこへ行っても生きていけますよね。知りたい情報は今の時代、インターネットでいくらでも調べられる。 課題を発見する力や自ら手を動かして解決する力が今後は必要になると思います。
市長 そうですね。子どもたちの未来を切り拓く力を養う「現代版国漢学校」にしたいなと。
佐々木 国漢学校の跡地で未来を担う人材を育てる。「米百俵」の精神が息づく長岡らしさが詰まっていますね。 多くの人に利用されてまちなかに活気を生んでほしいです。
市長 長岡から日本、世界を変える人を生むことが、長岡の「米百俵」の目指すところ。今年は長岡造形大学での新たな挑戦、そしてミライエ長岡オープンと、 新しい長岡を創るスタートの年です。市民のみなさんと一緒に「未来へ」の挑戦を進めていきます。 今年もがんばりましょう!